2007年08月31日

妊娠は病気ではないが

奈良の死産事件は、
マスコミが馬鹿な報道をしたせいで
意味もなく現場の人間を責めて、何も学ばない話となってしまった。

最初に聞いた話は
「妊娠3ヶ月の女性が救急搬送先が決まらずに流産」
だった。
それを読んだときには、やはり、「ええっ、また?!」と思った。
しかし、いつの間にか話は妊娠7ヶ月の女性になり、
胎内で胎児死亡の状態という事態だったことが判明。
そうすると搬送先が決まらなかったことで死産したわけでもなく、
女性の命が助かったのであれば、
ハッキリ言って救急隊はきちんと使命を果たしたのである。

どこが事件なんだ?

マスコミが「奈良でまた」と報道したいがために、
強引に話を持ってきた感じがする。
ましてや「義務忘れた医師たち」なんて言う表現は
全くのお門違いだろう。

深夜の2時にスーパーで買い物中に
腹痛を訴えて救急車を呼ぶ7ヶ月の妊婦ってどうよ、
という意見のほうが、よっぽど常識的である。
空きベッドがあったと得意げに報道する新聞まであったようだが、
医師も看護しも手が足りない中、
空いているベッドに「どうぞ」と寝かされたまま
何時間も放置されたらそっちのほうが怖い。

奈良県立医大病院のHPには、この事件の夜の
当直医たちのなんとも酷い勤務状況が公表されている。


今般の妊婦救急搬送事案について

 去る8月29日、救急搬送中の妊婦さんが不幸にも死産にいたりましたことについて、誠に遺憾に感じております。
 今回の事案につきましては、マスコミを通じて、さまざまな報道がなされておりますが、当病院の産婦人科における8月28日から29日にかけての当直医師の勤務状況や当病院と救急隊とのやり取りについて調査しましたので、その結果を公表いたします。


平成19年8月28日の当直日誌記録より

(産婦人科当直者 2名)

時間 対応内容

8月28日(火)     夕方から抜粋

19:06      妊娠36週 前回帝王切開の患者が出血のため            来院、診察後に帰宅

19:45      妊娠32週 妊娠高血圧のため救急患者が              搬送され入院、重症管理中

09:00~23:00  婦人科の癌の手術が終了したのが23:00、             医師一人が術後の経過観察

23:30     妊娠高血圧患者が胎盤早期剥離となり
         緊急帝王切開にて手術室に入室

23:36~00:08  緊急帝王切開手術

00:32      手術から帰室、
        医師一人が術後の処置・経過観察をする。            重症のためその対応に朝まで追われる。
        妊婦の対応にもその都度応援する。
  
当直外の1名の医師も重症患者の処置にあたり2:30ごろ帰宅

8月29日(水)

02:54     妊娠39週 陣痛のため妊婦A入院、処置

02:55     救急隊から1回目の電話が入る
      (医大事務当直より連絡があり当直医一人が事務に返事)
       「お産の診察中で後にしてほしい」
        そのあと4時頃まで連絡なし

03:32     妊娠40週 破水のため妊婦B入院、処置
      (これで産科病棟満床となる)

04:00     開業医から分娩後の大量出血の連絡があり、
        搬送依頼あるが部屋がないため他の病棟に交渉

04:00頃    この直後に救急隊から2回目の電話が入る
       「今、当直医が急患を送る先生と話しをしているので後で電話してほしい」
        旨、医大事務が説明したところ電話が切れた

05:30(病棟へ)    分娩後の大量出血患者を病棟に収容
       (産科満床のため他の病棟で入院・処置)
05:55      妊婦Aの出産に立ち会う。その後も分娩後出血した患者の対応に追われる

08:30      当直者1名は外来など通常業務につく、
         もう1名は代務先の病院で24時間勤務につく


ハードな夜勤の後にすぐ通常業務。
現場の医師たちの悲鳴が聞こえてくるようなスケジュールだ。
私が出産した病院も、
「先生たちも看護士さんも、いつ家に帰ってるんだろうね」
「○○先生、昨日夜勤だったのに今日は外来なんだよね」
みたいな話を患者同士でけっこうしていた。
ほんとに現場は苛酷だ。
これでは産科医になりたい気持ちがあっても
現実問題としては産科医にならない人が多いだろう。

ところで、

産科医の過密スケジュールの一因は
病院出産を望む人間が多いからだという。
何の問題もなく、自然分娩出来る人が病院に押しかけるから
病院が忙しくなってしまうというのだ。

妊娠は病気じゃない。

そう言う人がいる。
でも、病気じゃないけど命がけなのだ。
死亡率だって高い。
産科医になりたくない理由のトップは、
実は苛酷な勤務ではなくて訴訟に巻き込まれやすいから、
だという話もある。
命がけだからこそ、
妊婦も保険を掛けるのだ。
つまり、病院出産を選ぶ方が
よりリスクは低いのではないかと。
そもそも
今回の女性のように
全くかかりつけ医を持たないというのは論外だろうけれど、
自宅出産しようと思っていたとかいう人が
緊急事態になってしまったらどうなるんだろう?
かかりつけの助産師さんの名前を挙げても、
どうにもならないのではないだろうか?

前にも書いたように、救急で運ばれるとき、
その病院にカルテがあるかどうかというのは重要なのだ。
優先的に受け入れてくれる。
妊婦さんの場合もそれが大きい。
だからこそ、健康な妊婦も
とりあえず病院で検診を受けようと思うし、
そうしたらそのまま病院で出産しようと思うのだ。
病院で検診を受けるということは
3時間ぐらい待たされたりして妊婦には辛いのだが
それでも、
保険を掛けるという意味では、病院に通う意味がある。

マスコミが声を大にして言うべきは
妊娠出産というものは、
命がけであるということではないだろうか。
感動スペシャルとかで、
産科医が徹夜して頑張って「救うことが出来た!」という
話ばかりを取り上げないで、
徹夜して頑張っても、救えない命があることを
もっと伝えた方が良いと思う。

私の知人で、
安全策として病院でも検診を受けつつ、
一方で助産師さんにも定期的に診てもらって
助産院で出産した人がいたけれども、
そういう安全策を採るにはたぶんお金が必要だと思う。

出産に関しては
後からある程度のお金が貰えるにしても、
自分の懐からどんどんお金が無くなっていく不安感は
かなりなものだ。
私の場合多胎だったために検診の回数が多かったし、
流産騒ぎで入院までしたから
かなり高額だった。
乳幼児医療のように無料化できないのだろうか。

今回の7ヶ月の女性がかかりつけ医を持っていなかった、
つまり妊婦検診を受けていなかったのは
そういう出産は全額自己負担という現実のせいでは?
という意見のブログもあった。

ラベル:救急 奈良 死産
posted by ルクレツィアの娘 at 18:16| Comment(0) | TrackBack(0) | ビックリ世の中 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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